2016年度 公開研究集会 「百合子ダスビダーニャ」の上映とトークセッション
-監督浜野佐知氏と脚本家山崎邦紀氏をお招きして-

 

場所:神奈川大学横浜キャンパス 

企画・司会進行:纓坂英子(駿河台大学)

                                     駿河台大学
                                      纓坂英子                   
 本年度の公開研究集会は、映画監督の浜野佐知氏と脚本家の山崎邦紀氏を招き「百合子ダスビダーニャ」を上演後、トークセッションを行った。これは17歳で天才少女作家として文壇デビューをした既婚の百合子(中條)と、女を愛する女であることを隠さずに生きたロシア文学者の湯浅芳子が急速に親密さを高めていった40日間を中心に描いた作品である(原作:沢部ひとみ)。
 浜野監督は、映画では男に都合のいい女ではなく、主体的に自分の人生を選択した中條百合子と湯浅芳子の関係を軸に描いたと語った。そして監督と脚本家から、生前の2人の様子や彼女たちを知る人たちの語りが紹介された。ロシアから帰国後、百合子が宮本顕治のもとに去り芳子との関係が破綻した。その後、百合子は自著で芳子を否定したが、芳子は沈黙を守り反論することはなかったという。
 フロアからは、個性的な百合子を映画で描く難しさ、性的マイノリティという言葉もない時代の芳子のアイデンティティ、異性愛(百合子と夫)と同性愛(百合子と芳)の描かれ方の差異など、他にも作品への多くの質問があがった。
 フロアの質問に対して監督と脚本家は、宮本顕治の妻、作家として作られていた百合子のイメージを壊すために、強い存在感をもつ女優が百合子を演じる必要があったこと、芳子は既存のセクシャリティのカテゴリーに対する帰属意識がなく、マイノリティとしての「かっこよさ」を求めた人だったのではないかと答えた。
 集会の最後に浜野監督は、「役割を生きない」ことを力説した。これは期待された役割を生きるよりも、芳子のようにマイノリティとして生きることを選ぶというメッセージだったと思われる。